山口産業のこれまで
1972年に創業し、膜構造を強みとしてきた山口産業は、
今後、どんな社会課題に向き合い、
どんな企業であるべきか。
今回は、fog代表の大山貴子さんを講師に迎え、
対峙するべき社会課題や
パーパス(存在意義)の設定を目指し、
2日間にわたる社内向けの
ワークショップを開催しました。
SDGs時代に、山口産業が目指すべき未来とは?
2022年3月、山口産業のメンバー5人が参加し、2日間に渡ってパーパス設定のためのワークショップを実施。その内容を、ワークショップの設計やファシリテーションを担当したfog代表の大山貴子さんと、山口産業製造部の山口信之が振り返りました。
山口信之:ESGやSDGsに対応した、サステナブル性を備えたビジネスに取り組んでいかないといけないとは考えていましたね。製造業として今後、さらに責任ある企業活動が求められていくことは理解しています。しかし、例えば、「膜を使ってコンポストバッグを作れないか」といった環境問題に関連するような相談事は増えていたものの、あまり具体的な行動に移せていたわけではありませんでした。
大山:デザインファームであるfogには、サーキュラーエコノミーの実現を目指したリサーチやコンサルティングなど、さまざまな企業や組織から相談が寄せられます。2021年前半あたりまでは、「サーキュラーエコノミーやSDGs、脱炭素ってなんですか?」という内容の相談や問い合わせが多かったですが、2022年に入って、「具体的にどう対応していけばいいですか?」という内容に変わってきました。先ほど山口さんが言ったように、20、30年後の中長期的な成長を考えると、環境負荷や環境変化などを捉えたサステナブルなビジネスにシフトしていく必要があります。
山口信之:そういった取り組まなければいけないことを考えたり、実際に踏み出したりできたのは、今回のワークショップの大きな成果だと思います。普段、どうしても目の前の仕事を優先してしまうので、未来の課題を考えたり、実際にアプローチしたりというのはこれまであまりできていませんでした。
大山:当初、山口産業側から依頼されたのは、SDGsについての講演をするような内容でした。しかし、それでは一過性のモチベーションにはつながるものの、持続可能性のあるビジネス創出にはつながりにくい。企業でよくあるのが、SDGsにはこういう項目があって、現在の事業と照らし合わせて重なる項目はこれだから、うちの会社はその項目に取り組みますよというやり方です。そうではなくて、社会的な存在意義を意味するパーパスを掲げた上で、その実現のためにこの事業に取り組んでいきますというアプローチのほうが、中長期的に持続性のある事業を生み出しやすいと考えています。
山口信之:正直、ワークショップを体験するまではパーパスが何かもよく分かっていませんでした。最終的には、「最前線に膜を張る」というパーパスも非常にしっくりくるもので、自分たちが目指すものを認識できたことは大きな収穫です。
大山:山口産業はこれまで、自分たちが主体的にアクションするというよりも、クライアントの課題を通じて事業拡大や新規事業に踏み出してきました。今回、改めて自分たちの事業と向き合って、事業を深掘りすることが必要だと感じていました。そこで、今回のワークショップ、「持続可能な事業を生み出す探索プログラム」ではまず、50年間続く老舗企業である山口産業の歴史を振り返って、そのルーツを掘り起こすことから始めました。その後、SDGsや脱炭素などに関連する建築業界の動向をお話した後、書籍「ドローダウン」を読んで社会課題と自社の事業との接続を考えてもらうという宿題を出しました。ワークショップ2日目に、その宿題の発表を経て、パーパスについてのレクチャーをした後で、パーパスを設定し、アクションの検討につなげていきました。最前線に膜を張るというパーパスは、炭鉱で働く人々の命を支えることから始まった山口産業の歴史や、エッセンシャルワーカーや畜産業界の人々、コロナ禍の医療従事者といったさまざまな分野の最前線にいる人々を支えるという、現代の事業にも重なっています。
山口信之:祖父は三菱鉱業セメントという企業で働いた後に独立し、炭鉱向けの商品を作ってきたようで、それが山口産業のルーツになっています。今回、創業者(祖父)のことは現在の代表(父)に教えてもらいましたが、これまであまり聞く機会もなく、積極的に知ろうと思ったこともありませんでした。ワークショップが、現在とはまったくビジネスモデルも異なる創業当時のエピソードを知るきっかけになりました。
NYで新聞社やEdTech企業での海外戦略、編集、ライティング業を経て2014年帰国。2019年自然と社会とコミュニティの循環、再生の構築を行うデザインファーム、株式会社fog創設。
大山:ワークショップ前に、参加者はそんなに多くないほうがいいという話をしましたよね。ワークショップの位置付けにもよりますが、目的によっては、環境問題に敏感な傾向にある若手従業員に参加してもらうというケースもあります。今回のように、決定権者に近い人たちが参加することで、パーパス設定後のアクションにつなげやすいという利点があります。
山口信之:ワークショップ後に、各部門や社内で情報共有することを想定してメンバーを決めましたね。各部門から、責任者に近いポジションのスタッフに参加してもらいました。みんな、管理職でありながらプレイヤーなど、現場との距離感が近い従業員ばかりです。山口産業は、今も社長が営業をしているほど従業員のプレイヤー意識が強い会社だと思います。
大山:ワークショップを終えて感じたのは、例えば、東京にある大企業ではこうはいかないだろうということですね。パーパスの設定からアクションまでのスピード感は、山口産業ならでは。経営層の意思決定が、ものづくりの現場に届きやすいと感じました。ワークショップの最中にも、「どんなアクションをしたらいいか」という質問が寄せられて、具体的なアクションの話に素早く移行していったのが印象的でした。
山口信之:今回のワークショップもそうですが、新商品開発や販促プロジェクトは、社内横断的に人員を募って取り組んでいます。自らやりたいと手を上げる従業員もいれば、適任者に声をかける場合もありますね。部門を超えることで、通常の業務とは異なる推進力が生まれます。
大山:ワークショップ1日目には工場視察もありましたよね。工場内を歩いていたら、大きなスクリーンが設置されていて、なんだろうと思って聞いてみたら、各地の生産拠点と全体ミーティングをする際に使うスクリーンということでした。働いている人たちの関係性が近く、シームレスで透明性が高い企業だと思いました。
山口信之:もともと、みんなでひとつの仕事に向き合うことが仕事のやり方の原点にあって、そこは今も大切にしているところです。現在、私が責任者を務める工場が国内に6拠点あり、従業員はこの10年間で3倍ほどに増えました。人数も部門も増えた今、組織の透明性を保つのは正直、難しい場面もありますが、スタッフ同士がコミュニケーションできる仕組みはこれからも増やしていきたいですね。毎月6工場を訪れて、各拠点の責任者と面談し、部署内や全体、設計と製造といった部門をまたいだ会議も頻繁にしています。
大山:参加者から熱い思いが出てきたのが印象的でした。パーパス設定のなかで、参加者それぞれが誇りに思っていることに関する話をしていた際に、例えば、炭鉱向けの風管から事業が始まった話や、最近だとテント牛舎の話もそうですね。畜産業界で働く人々の高齢化や、新しく牛舎を建てるのにコストがかかるという産業課題を解決してきたという自負を感じました。コロナ禍で使われた空気で設置できるテントの話も同様です。そういった話がどんどん出てきて、みなさん会社のことがお好きなんだと感じました。パーパスの話をしていると、「自分たちが柔らかさや強さがあるテントのような人材である」とか、「最前線にいたい」「すべてのものを包み込みたい」といった発言があって、自社の事業としてやっていることに気持ちがあると感じました。
山口信之:パーパスは、普段改めて考えたり、話し合ったりする機会がないことではありますが、将来的な大きな夢というか、目標みたいなのを話し出すとどうしても止まらないですね。私としては、膜に対する気持ちが溢れちゃった感じです。個人的には、宿題にもなった「ドローダウン」という書籍が面白かったです。環境問題へのアプローチを漠然と考えるのではなく、自社の事業や膜をどう使うかと考えるのが新鮮で、さまざまな課題に自社がどのようにアプローチできるかという視点で読むことができました。参加者からも、たくさんアイデアが出てきて、重要なプロセスだったと思います。
大山:環境問題は地球規模の大きな問題なので、他人事化してしまいがちですよね。ドローダウンという本は、地球温暖化に対する100の解決方法が書かれたもので、100個の項目を出発点に考えることで、自社の事業や活動に接続しやすい。自分事化しやすいように、課題書籍として設定しました。
山口信之:パーパスは、「最前線に膜を張る」ということで、まずは、被災時の迅速な支援の実現を目指して佐賀県多久市と茨城県北茨城市という2つの自治体と災害連携協定を結びました。ほかにも、これはまだ公開できませんが、産学連携の取り組みを具体的に進めています。
大山:このスピード感が山口産業らしいですよね。
山口信之:外部から相談いただいた際に、社会を意識して前向きに動けたのはワークショップの体験やパーパスの設定が大きかったと感じています。会社内に留まっていたリソースが社会に広がって、私たちの行動範囲も徐々に広がっている気がします。
大山:山口産業には、さまざまな課題解決に、膜や膜構造で取り組むという対応力や、できることはすぐにやっちゃうというチャレンジ精神がありますよね。環境問題には、100%正しいことをやるというアプローチもありますが、できることをやっていくという方法もあります。もし間違っていれば、やり直してまた突き進めばいい。山口産業は社会や環境への適応力が高くて、未来に続く企業だと思いました。
山口信之:常にスピーディーに取り組んでいれば、もし何か問題が起きたとしても、軌道修正しやすいと思っています。
製造の責任者として、プロジェクトの生産管理を行っています。MEMBRANE LAB.では、「こんな事を膜でできるかな」という事柄に取り組み、実現可能か検討・挑戦しています。
書籍「ドローダウン」に掲載されているトピックの中で、膜構造を使って、課題解決に近づけそうなものはないだろうか。自社の事業との接点を踏まえて検討した、5人のアイデアを紹介します。
ドローダウン
地球温暖化を逆転させる100の方法
著者 ポール・ホーケン(編著)
江守正多(監訳) 東出顕子(訳)
出版社 山と溪谷社
ISBN 9784635310437
研究者や専門家らの調査に基づいた、地球温暖化に対する100の具体的な方法を紹介。再生可能エネルギーや食など、多様な分野における解決策を示した。
大気中に放出されるメタンガスは、最大で二酸化炭素の34倍もの温室効果をもたらします。このメタンガスは、メタンダイジェスターと呼ばれる装置を使ってエネルギーに変換することが可能です。アジアでは小規模なメタンダイジェスターが主流で、中国の農村部では、100万人以上の人々がメタンガスを変換したエネルギーを利用しています。
山口産業はテント牛舎をつくっていますが、牛のげっぷや糞尿から発生するメタンガスは温室効果ガスの排出源となっています。そこで、膜でできた屋根の形状を工夫し、空気より軽いメタンガスを集め、エネルギーに変換できないかと考えました。小規模なメタンダイジェスターで、家庭で使うエネルギーをまかなえないかというアイデアです。
「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」とは、建物のエネルギー収支をゼロにすることを目指した建物のこと。建築計画の工夫による日射遮蔽や自然エネルギーの利用、高断熱化、高効率化によって使用するエネルギーを減らし、使うエネルギーを創エネすることで、エネルギー消費量をゼロに近づけることができるという考えです。
ZEBの実現には、建物の断熱性能が欠かせません。膜構造においては、二重膜や三重膜による高い断熱効果が検証され、さらに近年、二重膜内に空気層をつくるという断熱手法の検証も進んでいます。膜構造を使うことで高い断熱効果を確保しつつ、膜の特性である透光性を活かすことができれば、一般建材と比べて大きな強みとなります。
製品をリサイクルする循環型ビジネスモデルの構築に加えて、有機資源を原料とする再生可能なバイオマスプラスチックと、微生物などによって二酸化炭素と水に分解される生分解性プラスチックの総称であるバイオプラスチックの使用の検討です。石油系プラスチックと比較して、バイオプラスチックの環境負荷は、低く抑えることが可能です。
循環型ビジネスモデルでは、廃材を使ったバッグなどの開発に取り組んでいます。膜の原材料は、石油系プラスチックのポリエステルと塩化ビニールで、それらが接着されているためリサイクルが困難になっています。テントはもともと、リサイクルしやすい帆布でつくられていました。再生可能な新たな素材への置き換えを、今後も模索していきます。
農業における窒素肥料の過剰な使用が窒素化合物の増加を招きます。窒素化合物が増えると、地下水や河川の硝酸イオンが増え、田畑から離れた生態系にも影響を及ぼします。また、土壌から発生した一酸化二窒素、地球温暖化やオゾン層の破壊の原因となります。窒素肥料の使用は、適切に管理される必要があります。
窒素肥料による土壌の汚染を防ぐために、作物が育つのに必要な最低限の土を残し、その他の部分を膜で覆ってしまうというアイデア。こうすることで、窒素肥料の土壌への浸食や炭素排出を防ぐことができると考えました。膜であることで、設置が安価かつ容易にできるのがメリット。膜素材の窒素肥料への耐薬性などの検討が必要です。
街中の「ウォーカビリティー(歩きやすさ)」推進によって歩く人を増やすことで、クルマ移動によって発生する温室効果ガスの排出や、クルマの所有コストを飛躍的に削減できるという考え方です。歩く人を増やすには、街中を歩きたいと思えるような魅力の創出が不可欠です。歩く魅力をどのように生み出すかが、大きな課題となっています。
2025年に佐賀県で開催される「国民スポーツ大会」でのウォーカビリティー推進に、膜を活用するアイデアです。現状、佐賀駅からメイン会場のサンライズパークまでをどのように歩いて移動してもらうかが課題となっています。膜構造を使ったシェードやオーニングなどを設置し、華やかさを演出し、「歩きたくなる街作り」に貢献できると考えました。
ワークショップを通じて設定したパーパスを、具体的にどのような取り組みにつなげていけばいいのか。ワークショップに参加したMEMBRANE LAB.のメンバーでもある永田宙郷さんと山口産業設計部の山口健太が、今後のアクションについて語りました。
山口健太:最終的に、「最前線に膜を張る」というパーパスになりました。地球環境や社会課題などさまざまな問題がある中で、それらの最前線で我々が何をできるかという問いかけを含んだものになっています。ここで言う最前線とは、例えば、新型コロナウイルスの感染拡大で環境が大きく変化した医療現場などを指しています。膜が持つ特徴や山口産業の特徴であるスピード感などを強みに、新しい課題にも積極的に対応していきたいという意図を込めました。
永田:2日間のワークショップを通じて社内を見直すことで、もっと幅広い分野で膜や膜構造を活用できるのではないかという期待感も高まりましたよね。それが、ほかの企業がまだ踏み出していない、「最前線」に果敢に挑んでいくというマインドセットにつながっています。
山口健太:ワークショップ初日に、歴史や、今までやってきた事業の整理をしました。なんとなくは知っていたものの、改めて、設立からこれまでを順を追って振り返り、歴史を可視化して、現在の状況と照らし合わせることは初めての取り組み。そうすることで、現在の事業へのつながりが実感できたのがよかったです。
永田:山口産業の歴史を遡ると、もともとは1970年代、筑豊炭田や三池炭鉱といった炭鉱で坑道を掘っていた人たちに、布製のパイプを引き込んで空気を届けるというのが事業の始まりでした。歴史的にも、命を支える最前線に携わってきたというルーツがあります。ワークショップの最初に行った会社の歴史の振り返りは、社内の人にとっても私たち社外の人にとっても、印象深いプロセスとなりました。
山口健太:歴史を振り返ったからこそ、現在の山口産業に根付くスピード感の継承にも納得感がありました。山口産業の代表である山口篤樹は特に、本当に思い立ったらすぐに行動するような人で、常にスピード感を持ってやっています。代表は、以前からSDGsを意識しており、防災関連の取り組みやソーラーパネルを導入したりしていました。しかし、社員としては、「なんのためにやるんだろう」とか、「なんとなく取り組んでいると言えればいいのかな」という認識でした。今回、もっと先の未来を見て、立ち止まってそういった取り組みの本質を考えることができたのもよかったですね。こうした意識の変化を、今後の業務に生かしていきたいです。
山口健太:MEMBRANE LAB.は2019年に社内で立ち上げた研究組織で、大きく捉えると新しいことにチャレンジする受け皿。極端に言えば、目先の売上につながらないことであっても、そこに意義があればやる。未来の市場開拓につながるような挑戦に取り組むための活動拠点です。新しい取り組みや実験をしたい場合には、「クライアントは?」「売上は?」という事業の枠にとらわれることなく、MEMBRANE LAB.の案件として挑戦できるようになりました。MEMBRANE LAB.発足後、社内が活性化してきた感触もあって、少しずつ浸透してきました。でも、まだまだ、「MEMBRANE LAB.ってなんだろう?」と思っている社員は多いと思います。今回のワークショップの内容やパーパスと一緒に、一つ一つ社内に伝えることで、従業員全員を巻き込むような活動に広げていきたいです。
永田:MEMBRANE LAB.は、人材という視点からも成果が出ていますよね。MEMBRANE LAB.の発足はもともと、2019年11月に佐賀県の佐賀ファクトリーブランディング事業に応募したのがきっかけです。当時、社会意義の高い事業への成長を目指しているという話でしたが、やっていることがあまり伝わっていないだけかもしれない。さまざまな取り組みを整理し直して、あらためて発信すれば人材獲得にもつながると感じていました。佐賀県にある膜の会社というだけでは、若い人たちがキャリアパスを描きにくい一方で、東京の大企業ではなく、地方にある中小企業だからこそ生まれたチャレンジする姿勢を特徴として捉え直しました。そこを強みに、社内にも社外にもに開くことでオープンイノベーションを促すのがMEMBRANE LAB.の役割です。
山口健太:確かに、当時より人材確保はできています。山口産業が取り組んでいる、もしくはこれから取り組もうとしていることを伝えるツールとして、これまでに2冊のタブロイド誌「Active Reports」を作成してきました。それを採用活動や展示会場などで配布してきたことの効果が出ていると思います。
プラニングディレクター。2002~05年金沢21世紀美術館(非常勤)。05~07年株式会社t.c.k.w。08~18年 EXS Inc.を経て個人事務所TIMELESS設立。合同会社ててて協働組合共同代表。
山口健太:山口産業が新たに挑戦して、現在、すでに成果につながりつつあるのが災害分野と農業分野の2つの分野です。災害分野では、2020年に新商品を開発しました。それが、空気を送り込むと3分間ほどで設営が完了する非常災害用テント、「メンブリーシェルター air」です。これは、災害時の緊急避難所や救助拠点として使えるテントで、使わない時にはコンパクトに収納できます。現在、日本各地の自治体と災害時の物資供給に関する協定を結ぶなど、広く導入していただいています。
農業分野では、テント牛舎の販売が好調です。テント牛舎は、既存の牛舎よりも安価かつスピーディーに設置できるだけでなく、使用する膜の透過性によって、飼育する牛の品種に応じた採光を確保できることや軽量なことも大きなメリットです。実績が徐々に増えてきた中で、お客さんや社内からの声もあって、膜と牛舎の相性の良さを再認識しています。メンブリーシェルター airとテント牛舎の出荷台数は年々拡大しており、すでに、山口産業の事業の一角を担う商品に成長しています。さらに、そういった現場で働く人々がより快適に働けるような空間を作ろうという新しいプロジェクトも立ち上がっています。
永田:トタン屋根を採用している既存の牛舎では太陽光が入ってこないし、重量もある。建築物としての構造もあるので、換気のための穴を開けられる場所も限られていました。対して膜構造の牛舎は屋根が軽く、天井から光が入ってきて明るい。これは、牛にも人にもメリットです。柱がないことで空間を自由に使うことができる。既存の牛舎と比べて工期の短さも特徴で、畜産分野の人からするとイノベーティブな商品だと思います。
山口健太:コストも従来の牛舎の半額ほどで済みます。テント牛舎なら、補助金に頼らない牛舎の設置ができるという声もありました。
永田:金額的にもスケジュール的にも優位性があって、話を聞くと、もう鉄骨とトタンで牛舎を建てる意味がないと思えるほど。日光が入ることで、牛の健康やメンテナンス性という視点からのメリットも大きいです。
永田:最前線に膜を張るというパーパスを、どのような視点で実際のアクションにつなげていくか。どのように実現していくかをこの模式図に示しています。黒丸が長期的な取り組みで、それにつなげるために、薄い丸で短期的な取り組みを設定して、具体的な取り組みを示しています。ワークショップを整理して、達成目標の数字を設定して達成度を測りたいですね。
山口健太:先日のワークショップで出たアイデアをひとつひとつ整理して、挑戦につなげていきたいと考えています。現在、重点的に取り組みたいのが竹建築。日本だと、竹という素材は建築材料に認定されていないので建造物には使用できません。一方で、国内の大学など、竹を研究している先生は多く、一緒に取り組むことで日本における竹建築の研究や普及の前進につながると感じています。膜構造と組み合わせることで、建造物と竹の双方が抱える課題を解決するようなアクションができると思います。日本の竹とは種類が異なるものの、海外では、構造材に竹を用いた建造物は多く建っています。柔らかく、テンションによって形状などが変化する竹は、膜とも似ている。膜と竹は、相性がとてもいいと感じています。
永田:海外だと、小学校の校舎に竹が使われているのを見たことがありますね。机も椅子も竹でできていました。竹を漆加工すると、カーボンファイバーほどの強度になるという話もありますね。
山口健太:海外の事例では、土木の杭のような、強度も耐久性も不可欠な建材として竹が使われることもあるようです。
山口健太:異業種とのコラボレーションに力を入れて、膜や膜構造をさらに広めていきたいですね。異業種コラボの一例としては、佐賀県にある海洋関係の企業や佐賀大学といった、これまであまり関連がなかった分野の企業や組織とも協業しています。佐賀大学とは、膜を使った山小屋のような防災用の建造物の試作に取り組んでいて、先日、試作2号機ができたばかりです。近年ゲリラ豪雨などに見られる雨の被害の対策として、県外企業と共同で車両への浸水を防ぐカバーも開発しています。また、福岡県を拠点に雑貨や文具といったオリジナル商品を開発しているハイダイドというメーカーとの協業で、山口産業の膜の端材を使ってバッグを開発しています。
永田:材料の再利用も大きな意義のある取り組みですね。より環境負荷が少ない事業となって、再利用できる、持続可能な膜産業に近づいていきます。膜産業としたのは、山口産業は素材を作っているわけではないから。しかし、使い終えたテント生地をペレットにして再利用することはできるので、産業としました。山口産業だけでは完結できませんが、力を合わせるとできないことはないと思っています。
山口健太:業界内からも、山口産業が持つ現場のニーズを活用して、膜自体の共同開発、共同研究ができないかという相談もあります。
永田:山口産業は現在、製造業に分類されています。しかし、今後目指したいのは、「膜で解決できるか分からなくても、一度山口産業に相談してみよう」というポジション。膜の一歩手前の段階から相談してもらえる企業になるのが理想ですね。よく言われる言葉ですがソリューションカンパニーとして、膜でさまざまな課題を解決する企業になることが、パーパスに基づいたアクションです。これまでは、もっと軽くとか、社内の技術力を磨くことに力を入れていましたが、今後社会課題に取り組むには、社外と協力することで解決できるようになると思います。
山口健太:先ほど、MEMBRANE LAB.は社内の受け皿のような存在と言いましたが、社外からの相談の受け皿でもあります。MEMBRANE LAB.ができるまでは、どんなことでも自社ですべて賄って頑張ろうという考えでした。さまざまな企業や組織とのコラボが始まったのは、MEMBRANE LAB.ができてから。こうした取り組みを継続的にやっていくことで、より多様な分野からさまざまな相談が寄せられるようになっていくはずです。MEMBRANE LAB.が社外からの窓口となることで、社内に留まっていた知見などもより広く活用できるハブのように機能しています。
永田:先日は、東京のラジオ番組から話を聞きたいという連絡もありましたね。今後は、こうしたさまざまな活動を知ってもらうことも課題になってくると思います。そのために、パーパスなども含めて、より情報発信に力を入れていく必要がありますね。
山口健太:社内に根付いているスピード感やチャレンジ精神。MEMBRANE LAB.には、チャレンジする姿勢を社内に見せるという役割もあります。これまで育んできた山口産業の社風を、新しく入ってきた社員や社外にも、もっと伝えていきたいですね。よりさまざまな領域に膜や膜構造の可能性を広げていければと思います。
MEMBRANE LAB.は、従来の考えにとらわれず、自由な発想のもとさまざまな角度から膜構造の可能性を模索し、チャレンジできる場になればと思います。
パーパスの設定を経て、企業としての将来像や事業領域をビジュアライズ。
「より環境負荷の少ない事業の実現」「地域と共存する企業への成長」
「持続可能な膜産業の構築」という山口産業の未来を支える3つの柱を、
協業を含む、多様なプロジェクトを通じて形づくっていきます。
Environment
2022年1月の「グリーン電力証書」取得によって、現在、消費電力の10%を太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーでつくった電力でまかなっています。グリーン電力証書とは、再生可能エネルギーでつくったグリーンな電力を証書化し、取り引きする仕組み。再生可能エネルギーの普及、拡大に貢献しています。
Community
2016年の施工事例から、「低コスト、短納期なテント畜舎」に可能性を見出し、社内で発足した「テント牛舎」プロジェクト。テント牛舎は、牛の品種ごとに透過率の異なる膜材を使うなど、最適な飼育環境をもたらすことが可能です。メッシュ生地による高い通気性やカラーバリエーションも、膜構造ならでは。
Community
スピーディーに設営できる「医療用エアーテント」は、大きな開口を両側に設けたトンネル構造で高い通気性を確保。ファスナーで簡単に着脱できる間仕切りや照明などを標準装備しています。新型コロナウイルス対策の医療用途や、避難所でのプライベート空間の確保など、さまざまな用途に使用できます。
Environment
佐賀大学とyHa architects、海野建設、志村製材、テツシンデザイン、そして、山口産業という6つの組織、企業と協業で開発中の「ヒュッテント」。ヒュッテントは、登山時の避難小屋や森林整備の拠点を想定して設計した、一辺3.5メートルほどの山小屋。構造の建築資材に軽量な木材を使用することで、生産と運搬におけるCO2排出を抑制。膜で覆うことで、木材のみに比べて耐久性も向上しています。
Environment × Sustainable
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年に開催予定の大阪・関西万博では、材料のリサイクルの仕組みを有していることが入札条件となっていました。そこで、廃棄物のリサイクル事業を担うパートナー企業と協業して、新しいリサイクフローを構築しています。
Sustainable
外部遮蔽機能により日射熱吸収を軽減し、年間の冷暖房の消費エネルギーを最大50%以上削減。使用する膜素材やアルミが軽量なため、製造過程はもちろん、施工時、運搬時におけるCO2排出量の削減にも貢献します。
Sustainable
文具、雑貨メーカーのハイタイドとコラボレーションし、開発中の新商品は、山口産業で使用した膜素材のあまりなど、廃棄する予定の膜素材を再利用したバッグや雑貨類のシリーズ。廃棄するゴミを削減しながら、そこに新たな価値をもたらすアップサイクルな取り組みを推進しています。