塩浦:今回のワークショップのテーマは、「都市の変化」です。ちょっと長くなりますが、まずは「都市ってなんだろう」を説明していきます。最初に、都市の歴史を振り返ると、神の都市に始まり、次に王様が主人公だった時代を経て、商業が主役の時代。そして、現在の、法人の都市と変遷してきたと考えています。
塩浦:神の都市は、都市の中心に神殿があったメソポタミア。その次の王様が主人公だった時代は、王政や封建主義。ピラミッド型の組織ができて、都市の原型ができてきました。ローマの面積は、東京都港区くらいのサイズです。当時のローマは人口80万人で、奴隷が70万人いた格差社会でした。都市に人が密集していました。都市の基本的な作りは、このころからあまり変わっていませんね。
塩浦:資本主義が出てくる以前、交流や貿易が盛んになると商人の都市ができて、富や情報が流通する時代が訪れました。江戸は、この時代の最も栄えた都市のひとつで、70万平米の場所に100万人が暮らしていました。当時の平均寿命は43歳です。
塩浦:その後、資本主義が生まれて産業革命が訪れ、いよいよ見慣れた都市構造が誕生します。これが法人の都市。会社やビルが都市の主要な要素で、そこで働く人々の住宅や工場、超高層ビル、駐車場が都市のメインになってきました。今、この法人の都市、20世紀型の都市が、老朽化を迎えているという話があります。
塩浦:現在の都市のトップランナーは、スーパーシティ。物理的な空間に、IoTや5GといったIT技術を導入して、都市のバイタルデータを管理します。それによって、管理社会が生まれるという人もいれば、究極の利便性やセレンディピティ、完全な衛生管理がもたらされるという人もいます。スーパーシティに関しては、2019年に国家戦略特区でスーパーシティ構想の予算が出て、さまざまな市町村が名乗りを上げています。
塩浦:ここまでの話をまとめると、都市の定義は、暮らしや仕事を成立させるための手段の集合体。それを調達するための空間です。都市をデザインすることは、そういった調達効率を高めること。しかし、この集合体に老朽化が起きています。
田崎:塩浦さんに伺った話〈リサーチ〉(ページ04)だと、公共建築を中心に都市の老朽化が進み、新しい試みが問われている。そこで、新しい建築物を建てますではなく、ソフトウェアというかコンテンツ、人間のアクティビティが求められるという話でした。箱物は時代遅れで、異業種の企業が都市のプログラム開発に参入するのもウェルカム。老朽化した都市に可変性が必要とされるし、膜建築、膜機能の重要性は高いという話もありました。
永田:一方で、膜建築が抱える課題としては、公共建築のように安全を優先したい時に膜は不安定な素材と思われていて、やはり、コンクリートを使ったほうが安全というイメージが強かったです。膜建築には、コンクリートでは起きない問題が起きてしまいそうなので、公共建築などにはなかなか使えないということでした。
ハードとソフト、2つの意味の老朽化
塩浦:今回の主題に戻ると、都市の老朽化には、橋にクラックがあるとか、築年数とかフィジカルな老朽化。価値観やライフスタイルが変わったことで、空間というものが、価値観やライフスタイルに合わなくなってきた老朽化という、2つの意味の老朽化があります。前半のフィジカルな老朽化はハードの話で、業界の中で多くの人が挑んでいる。首都高速の老朽化をどうやって防ぐかなど、さまざまな議論や施策があります。しかし、後者のソフトの老朽化をコントロールする人があまりいなくて、ベンチャーや異業種の新しいプレイヤーを交えて、玉石混交な状態です。
塩浦:20世紀型の都市を作ってきた3大マテリアルは、ガラスとスチールとコンクリート。フィジカルな都市の老朽化では、山口産業のメンブレンをどう使うかが課題解決につながると考えます。どんなマテリアルも、内側から冷やすより外側の熱をプロテクトしたほうが効率がいいので、古い建物の外壁をラップするという膜の使い方が考えられます。
塩浦:ソフトウェア寄りの話だと、都市で特に老朽化しているのがモノの動き方です。都市に人が増え、ビルができて高密化してくると、成功した人は都市の中心に暮らし、そうではない人は都市の外側に暮らす。ここで見落としがちなのが、都市から出る排泄物やゴミの問題です。こういった、当たり前だけど目をつむりたい現実を解消していたのが、郊外に山を切り開いて埋立地を作ることでした。しかし、21世紀になると、価値観が変わって、そういうわけにもいかなくなってきます。そもそも、そんなに人が都市に集中する必要があるかという話にもなってきます。従来のように、人やモノが動くことはいいことだ、エネルギーは最高だではなく、動かす価値があるモノを動かすという考え方にシフトする必要があります。それを戦略的にやっているのがAirbnbやUBERといったサービスですね。しかし、既存の都市モデルも道交法も、こうしたサービスに対応していません。これも一つの老朽化と言えます。
塩浦:働き方も暮らし方もそうですね。働き方で言えば、相変わらずオフィスがあって、平均世帯人数が1.4とか1.5人なのに4人家族向けの住宅が作られている。老朽化というか賞味期限切れですね。
塩浦:個人的に気になっているのは、移動の先にある散歩みたいなものの価値。これは、建築家の黒川紀章の言葉ですが、人には短時間で効率よく移動する欲望もあるし、人に会うためにふらふらしたい。さらに、意味なく街をさまよう欲望もある。
塩浦:20世紀の都市が効率を求めたあまり、ただ出歩くことは厳しくなったように思います。それによって、多くの人の人間性や野性的なものを失って、意味に埋没した。散歩を許容できるような都市が、これから大切になってくると思います。