INDEX
ACTIVE REPORT No_1

佐賀から挑む、
膜構造の未来。

世界の膜構造事例

「できるわけがない」「そんなの馬鹿げてる」まったく新しいアイデアやこれまで誰もやらなかったチャレンジは、たいていそうやって否定される。でも、私たち山口産業は、そんな言葉を信じない。それよりもむしろ、そう言われるからこそ挑む価値があるのだと思う。不可能と思われるほどの困難の先には、きっと今まで見たことのない世界が待っているのだから。

これまで約50年の歴史の中で世の中に数多くの膜構造をつくってきた私たちは、小さいながらも企業や社会が抱える課題を解決してきた。技術の進歩が速い一方で、次々と社会課題が生まれてくるこの時代、今ここで立ち止まってはいられない。ひとつでも世の中の問題を解決するために、少しでも未来をより良くしていくために、常に広い視野を持っていたい。常に次世代の力を取り入れ、常に新しいアイデアを探していきたい。そして、私たちだけで解決できないときには、志を共にできるパートナーと一緒に乗り越えていきたい。

新しく社内で立ち上げられた「MEMBRANE LAB」は、その第一歩。ここで生み出されたアイデアから、日本や世界が直面する社会課題をきっと解決していける。たとえ何度失敗したとしても、その先にひとつでも課題解決という価値の創造があれば、ここ佐賀から世界を変えていける。Wrap the Future.膜で未来を包み、世界を守り、人々と共に進んでいく。私たち山口産業は、これからも膜構造で社会課題に挑み続けます。

1."File:2014_Olympic_Stadium_Munich.JPG" by M(e)ister Eiskalt is licensed under CC BY 3.0
2."File:King Fahd International Stadium (66723825).jpeg" by Fox is licensed under CC BY 3.0
3.Photo by Arpingstone
4."File:2014_Olympic_Stadium_Munich. JPG" by M(e)ister Eiskalt is licensed under CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0/

Future
KANDO 代表 田崎 佑樹

ものづくり産業の新たなVisionが
次の未来をつくる。

田崎氏とのワークショップでは「膜構造を使った新しいアイデア」が話し合われました。その中で、ひとつのコミュニティに留まらず、「いつか地球全体を膜で覆いたい」というビッグアイデアまで広がりました。

社会課題に対する熱と
チャレンジ精神が、会社も世の中も
激変させていくはずです。

これからの企業のあり方を考えるとき、もう単に利潤追求だけを考える時代は終わったと感じています。気候変動による環境問題は待った無しの状況にあり、そういった危機感については、若い世代の方々も敏感に感じ取っているのではないでしょうか。今後のマーケット課題は社会課題の設定に移りはじめており、逆に言えば「社会課題の解決=利益を生む」といった構造に世界はシフトしているということです。今後10年で地球環境と社会情勢は予測できないほど大きく変わるというのは、世界全体の共通認識。事業計画は中長期的な視点で考えないといけませんが、世界が複雑加速する中で「数年後はこうなりそうだから、そのために今これをやるのだ」という「未来予測」ではもはや通用しません。大切なことは、自社の存続のためだけの事業構想ではなく、世界と日本が直面している社会課題に真っ向から取り組むこと。それによって新たなマーケットは切り拓かれていくし、強力で魅力的なブランド力も自ずと醸成されていきます。

KANDO 代表
田崎 佑樹

クリエイションxサイエンス・テクノロジーxファイナンス・ビジネスを三位一体にし、ディープテックの社会実装と人文科学を融合させた事業を開発する「Envision Design」を実践する。Envision Design実践例として、REAL TECH FUND投資先であるサイボーグベンチャー「MELTIN」、人工培養肉ベンチャー「インテグリカルチャー」担当。その他にパーソナルモビリティ「WHILL」MaaSビジョンムービー等。

今回は農業という課題を設定しましたが、10年・20年というスパンで考えても山口産業にとってのビジネスチャンスは大きいと思います。これからの人口増加による食料自給率のさらなる低下は容易に想像できますし、自然災害による甚大な被害については今さら言うまでもなく、猛暑による栽培環境の変化も激しい。それにも関わらず、近年農業が大きく進化しているとはとても思えない。そんな状況の中で、これから山口産業に何ができるか。膜構造を扱う「技術の会社」なのだから、その技術をどう活かせるかを考えてみてほしい。

自由度や強度、技術革新の可能性を秘めている膜構造なら、気候変動の影響を受けにくい農業のビジネスモデルを確立できるはず。そして、収支計算の立てにくい農業を、きちんと生産性を確保し、安定した事業にすることもできるはず。「世界をどうにかして変えたい」という熱を、「山口産業が農業と世界の救世主になる方法」を考えるようなチャレンジ精神を、これからの山口産業と若い世代に期待しています。

Future
SCAPE 代表 塩浦 政也

膜構造の強みを再認識し、
新時代に必要とされる
未来の建築を考える。

「地面に固定されなくてもいいのだから、基礎構造を考えなくてもいいかもしれない」と塩浦氏。地震や洪水に「耐える」のではなく、動くことで「受け流す」建築という可能性について、アイデアが飛び交いました。

膜構造はイノベーションの種。
どんなアイデアを
掛け合わせられるかがカギ。

大学院時代にメガストラクチャーの研究をしたあと、長く日建設計という大規模な組織設計事務所で建築や都市の設計に関わってきましたが、キャリアを積むにつれてひとつの建築物だけでなく、交通インフラをはじめとした社会環境を整えながら「まだ見たことのない都市をつくりたい」と思うようになりました。それはつまり社会課題をどう捉え、どう解決していくかという意識が芽生えたということだと思います。そして建築には、その課題解決のツールになるポテンシャルがあると信じています。私は2018年に独立して「SCAPE」という会社を立ち上げたのですが、コンセプトとして「(80年後の)22世紀の景色へ」を掲げています。近年、大きな気候変動によって多くの自然災害が起きている中で、20世紀と同じデザイン、同じスタイルの都市でいいのでしょうか。これからは、建築家の思想が、建設会社や山口産業のようなものづくり企業の技術が、日本と世界の都市に大きなイノベーションを起こしていけるはずです。

建築家の視点から山口産業の財産である膜構造建築を考えると、非常に高い自由度と柔軟性が大きな武器だと思っています。例えば、建築物を支える基礎構造は一般的にとても重要なものですが、膜構造はその基礎構造から解放される可能性も秘めている。今回、山口産業のみなさんとワークショップをさせていただきましたが、その中で「巨大な球体の膜構造」というアイデアが出てきました。台風や洪水といった災害に直面しても「浮く」とか「流される」ことで破壊されず、「自然に抗わない住宅」の実現も不可能ではないと感じました。しかもその内部で、自給自足を実現させるという。ある意味では建築業界や不動産業界、そして農業界をひっくり返すような発想ですが、とてもおもしろいと思いました。工業・商業利用だけではなく、人が暮らしを営む空間という観点からも、膜構造はアイデア次第でまったく新しいイノベーションを起こせると、私は信じています。

SCAPE 代表
塩浦 政也

早稲田大学理工学部建築学科大学院修了後、株式会社日建設計に入社。東京スカイツリータウン「ソラマチ」などに携わった後、2013年に「アクティビティ(=空間における人々の活動)が社会を切り拓く」をコンセプトに掲げた領域横断型デザインチーム「NAD」を立ち上げる。2018年に独立し、「株式会社SCAPE」設立。空間と社会へイノベーションをもたらす「人間行動に着目したデザイン手法」は、幅広い業界から注目を集めている。

Social Issue #1

世界の農業を救え。

Q. 近年の大規模自然災害をはじめ、
多くの難題を抱える農業界。
食の問題にも直結する農業の社会課題を、
膜構造で救えるか?

現代社会に数多く存在する社会課題から、山口産業は何に取り組むべきか。KANDO 田崎氏によるワークショップを通して、まずは「農業」を選択しました。

SDGs(持続可能な開発目標)が採択された2015年の国連サミット。このとき国連は「今後地球上の露地栽培で、人類が消費するカロリーを賄えるのもあと10年」という趣旨の発表も行いました。それは人口増加や気候変動によるひとつの予測ですが、2019年の台風による国内の農業被害総額が4,000億円を超えたということも、ひとつの事実として見逃せません。そういった気候変動の影響が大きい一方で、人口増加に伴う食料自給率の低下、そして就農者の高齢化も進んでいます。

農業の必要性はこれまで以上に高まっていく傾向にあるにも関わらず、自然の脅威に敵わず長く農業に携わってきた人々も離れていかざるを得ない現状を打開できないか。今後地球の多くの地域で干ばつ地帯になるか、豪雨地帯になるかの二極化が進むと言われている中、どのような栽培環境を整えていく必要があるのか。農業が盛んな佐賀県に本社を置く私たちも身近に感じることのできる社会課題です。この問題に対して膜構造が創造できる農業の未来を、先端農業に取り組み、世界から注目を集めるCULTIVERA代表の豊永翔平氏と共に考えてみました。風速70m/s(理論値)に耐える膜構造建築を可能にする山口産業なら、長い間技術的に大きな進歩がないと言われるビニールハウス、そして大規模な農業施設を鮮やかに刷新していけるはずです。

1."File:Flood eroded road and collapsed guardrails in Asakura.jpg" by Hajime NAKANO on Flickr is licensed under CC BY 2.0
2."File:Flood falled down trees near Haki IC of Oita Expressway in July 12.jpg" by Hajime NAKANO on Flickr is licensed under CC BY 2.0
3."File:DirkvdM santa fe scorched-crop.jpg" by DirkvdM is licensed under CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0/
4.Photo by NASA5."File:Red sand dune in Namibia.jpg" by Uploaded on October 1, 2006 by :::Rui Ornelas::: is licensed under CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/

Research
CURTIVERA 代表 豊永 翔平

農業の今と未来について、
次世代を担う
イノベーターから知見を得る。

先端農業の技術開発は、
露地栽培ではなく施設園芸が
前提になっていく。

現在私は三重県で「POMONA FARM」という農業法人を運営し、同時に「CURTIVERA」という会社も立ち上げ、農業の技術開発に取り組んでいます。そんな私から見ても、現在の農業界は日本も世界もかなり切迫しています。気候変動や異常気象によって、おそらく今後5年以内に露地栽培は今のやり方が通用しなくなり、施設園芸も10年ほどしか猶予がない時代になる。

農業は、結局自然とどう向き合っていくかということでもあるのですが、近年では露地栽培・ハウス栽培に加え、企業による植物工場も増えはじめました。それもやはり、気候変動の影響を受けにくく、効率的に育てやすいというメリットがあるからです。気候変動による影響の大きさの比率は、露地:ハウス:植物工場でいうと、1000:100:1くらいでしょうか。つまり、植物工場の需要は今後ますます高まることは明らかで、それは膜構造を扱う山口産業にとってのチャンスになるはずです。

今、私自身が取り組んでいる農業技術の研究も膜構造の利用を想定しています。これまでの水耕栽培は、実は多くが赤字でした。それは植物に「ゆとり教育」をさせていたからなんです。最近の若い人がすぐに会社を辞めてしまうように、徒長成長といって、収穫して出荷するとすぐにダメになってしまう。植物の内部組織がきちんと育たず、形だけ大きくなっていくケースが非常に多かったんですね。さらに大量の水と電気も使い、実はサステナブルではない。世界の多くの地域では、水を使いすぎることを理由に禁止されているところもあるほどです。そこで私たちは、湿度管理で栽培する方法を研究開発しています。簡単に言えば、5mmくらいの繊維層で自然の土を再現するような農業技術です。水を湿度に変えることで、植物に負荷をかけながら育て、使う水の量も10分の1で済みます。水が豊富でない土地でもその繊維層のシートを広げれば農業用地になる。「水も土も使わず栽培する」という農業システムを、膜構造で覆ってもらう。そういう仕組みです。今トライしているのはレタスやトマト、いちごや根菜類などで、設備費用も水耕栽培の半分もしくは1/3くらいでできるようになってきました。低コスト化を実現することで、若い世代も参入しやすくなる。それはとても大切なことなのです。

CURTIVERA 代表
豊永 翔平

1989年生まれ。早稲田大学考古学研究室にて、カンボジアの遺跡発掘、景観・文化保存の活動に携わる。その際アジア各国で目にした文化遺産の周りに起こる環境劣化や産業の空白化から起こる若者の都市への一極集中に疑問を覚え、地域の基盤産業を作るべく環境保全と両立できる農産業の可能性を探りはじめる。大学卒業後は、経営コンサルティングのベンチャー企業に入社。その後、島根県での農業研修を経て、現在に至る。

他にも、どんな環境でも農業ができる新しい密閉型の栽培施設をつくっていきたいと考えています。まだ構想段階ですが、砂漠の上に構造体をつくり、地下水脈から土中を通して集めた蒸散水を結露させて水を回収する、といった仕組み。雨水も活用することで、ある程度の量の水を確保できるようになります。ただこういった話を既存のビニールハウスメーカーにしてもコストの話にしかなりませんし、実現に向けたポジティブな意見も出てきません。長年同じような企業体質でやってきたところは、なかなか新しいことに挑戦してくれないんですね。そういう意味でも、山口産業は家畜舎などにも挑戦されているので、私はとても可能性を感じています。私たちが考えていることを山口産業と共にパッケージ化していくことができれば、国内どころか世界から引く手数多。現代は、これまで農業と関係ないと思っていた企業ですら農業に取り組むような時代です。今後は大企業が大規模農業施設を整え、新規就農者に貸し出す。そんな不動産型の農業スタイルがきっと増えていきます。つまり、革新的な農業技術は大きな企業が買ってくれるということです。そして、そこに新規就農者がやってくる。それが、これからの農業のビジネスモデルです。

確かに今後は農家の数そのものは減っていくけれど、反比例的に一人当たりの農地面積は何十倍にもなっていくと思います。それぞれがある程度の規模を持つようになっていくとき必要になるのが新しい技術とシステムです。マーケットそのものが小さくなることは決してないので、ここ数年で必ず大きな変化が訪れます。こうやって山口産業と出会えた幸運に感謝しつつ、一緒に新しいことに挑戦できれば嬉しいですし、何よりも日本と世界の未来に大きく貢献できるはずです。今や食べ物をもっと効率的に、そして確実につくらないといけないということは、世界のみんなが抱えている共通の課題なのですから。

左)高密度繊維の上で栽培される植物。湿度をコントロールすることで、しっかりとした根を下ろすそうです。水の使用量は最大で従来の10分の1。排液も出ないことから水処理システムも不要で、低コストも実現した次世代型の農業技術。
真中)ダブルベッド方式で栽培されるフルーツトマト。水分ストレスを活用し、高糖度化を実現している。
右)地下からの蒸散水と雨水を活用することで、水資源の少ない地域でも農業を可能にする革新的なシステム。

Searching New Possibilities.

Development

食住一体を叶える膜構造建築の可能性を探る。

ワークショップ形式のアイデア会議で、
山口産業と膜構造の新しい可能性に出会う。

KANDO田崎氏とSCAPE塩浦氏を迎えて、山口産業の各部署から集まったスタッフと共に行われたワークショップ。田崎氏の「技術を因数分解して、新しい組み合わせを考える。それが画期的なアイデアにつながる」という言葉の通り、まずは膜構造の可能性を探るために、「幅70mくらいなら柱のない空間をつくれる」「開閉できる蛇腹式もある程度のスケールで可能」「二重膜による断熱性」「木造とのコラボレーション」「移設前提で基礎を代替素材でつくった」など、これまで培ってきたさまざまな技術と経験を抽出していきました。その組み合わせによって生まれたアイデアは、「球体の膜構造建築」というもの。塩浦氏曰く「従来の建築の考え方は、強い基礎が必須。膜構造は基礎から解放されるとイノベーションを起こせます」。球体の膜構造とは、ジャイロスコープ技術を用いて内部を水平に保つことも可能にし、台風に襲われても「転がる」、洪水が起きても「浮く」ことで壊れないという構想。内部空調も完全にコントロールすることで、住居としてだけでなく、農地を確保することだってできそうです。ひと家族の野菜栄養価を葉物野菜で補うために必要な農地面積は約40平米だそうですが、直径10mの球体膜構造をつくれば十分に確保できます。「球体に住むのは人類の夢」と話す塩浦氏をはじめ、参加者全員が活発かつ楽しく議論を重ねることができました。ただしこれは、まだあくまでも構想段階。次はまた違った角度からの専門的知見を取り入れながら、実現性を追求していきたいと山口産業は考えます。そういった技術や知識の統合が新たなイノベーションを生み、未来のスタンダードとなり、街の風景を一変させることを目指して。

ワークショップでは、ある程度の広さを持つ区画に複数の球体膜構造の住宅が集まる新しい都市計画にまで議論が発展しました。台風や水害で流されてしまった際は「人々が協力し合って元の位置に戻す」ということが前提。人の手が介在することで、強いコミュニティ形成にもつながります。

Voice in Saga

佐賀で働く人々は、今どんなことを考えているのか。
今回は農業とクリエイティブ業に従事する方々にお話を伺いました。

Voice 1
江口農園
江口 竜左

地元・佐賀で代々継いできた農業を、
楽しみながら発展させていきたい。

なぜ佐賀でパクチー栽培を始められたのですか?

江口:もともと祖父が農家だったこともあり、身近に農業がありました。子どもの頃から「農業は楽しいもの」と思っていたので、自然と農業高校に進みましたね。就農してからは父と共に長くキュウリ栽培をしていたのですが、漠然と「江口農園の新しい顔」になるものがほしいと感じていました。そんなタイミングで、武雄市が農業活性化を目的にパクチーを栽培する農家を探していたんです。今思えばどうしてパクチーだったのかはわからないのですが、他の農家さんが手を挙げなかったこともあり、「やってみよう」と思いました。私自身パクチーの知識がなかったので本当に試行錯誤の繰り返しでしたが、ある程度収穫できた年に市の協力もありたくさんの料理人の方々が来られたんです。その時に「もっと収穫量を増やさないといけない」と思い、ハウス栽培もやるようになりました。

ビニールハウスは一種の膜構造ですが、山口産業に期待されていることはありますか?

江口:山口産業のみなさんはきっと「今の時代、災害に強い農業設備こそ求められている」と考えられていると思いますが、逆の発想があってもおもしろいですよね。フレームも含めてごく簡易的で、安価なもの。実はビニールハウスは高価格帯のものが増えているので、それらが被害を受けると深刻なんです。だから「すぐに安く建て替えられる」というのも、リスクとの付き合い方のひとつだと思います。もちろん台風や水害に強いハウスや超巨大な設備も魅力的です。農地だけでなく農機具の保管場所や事務スペースまで、すべてをひとつの膜で覆ってもらうというのも、想像するだけでワクワクしますからね。最近は「農業って災害リスクが大きいでしょう」と言われますが、むしろ農業技術そのものは進んでいるわけですから、自分たちの工夫も必要かなと思っています。

今後、ご自身はどのように農業と向き合っていきたいですか?

江口:そもそも農業は楽しむもの、というのが私の考えです。栽培するだけでなく、大きな膜テントの屋外会場でイベント的に私が育てた野菜を楽しんでもらうなんてことをやってみたいですし、将来的には、見ても体験しても楽しめる「観光農園」をつくりたいですね。

江口 竜左

武雄市の農家の家庭で育ち、佐賀県立佐賀農業高校を卒業後、滋賀県の「タキイ研究農場付属園芸専門学校」へ進学。地元で就農後、父からキュウリ栽培を引き継ぐ。次第に「江口農園といえばこれ!」と言える野菜をつくりたいと思うようになり、武雄市が特産品として計画していたパクチー栽培に参画。耕作放棄地を開墾し、ゼロから栽培ノウハウを研究するなど、数年かけて「たけおパクチー」を誕生させる。パクチーの他にも空芯菜やレモングラスなど、アジア地域の野菜づくりに積極的に取り組んでいる。

Twitterで情報を発信中 @EguchiRyusuke

Voice 2
フレル株式会社
代表取締役
江口 昌紀
アールテクニカ株式会社 佐賀スタジオ
マネージャープロデューサー/ディレクター
賀村 航大

佐賀で仕事をしていると、
業種の垣根を越えた
「人とのつながり」が広がります。

山口産業の扱っている「膜構造」というものに対して、どのようなイメージをお持ちですか?

江口:「膜構造」というと一瞬戸惑うのですが、改めて思い返してみると、テント倉庫やトランポリン遊具など、身近なところに膜構造があるんだな、と思いました。

賀村:私はボーイスカウトをしていたので、テントを含め膜というものには親しみがあるほうだと思います。柔らかそうに見えるけと意外と頑丈で、防水性や除湿性に優れているなど、機能面まで想像できますね。

佐賀に本社を置く山口産業ですが、お二人にとって佐賀で仕事をする良さ・楽しさはどこでしょうか?

江口:山口産業のみなさんはきっと「今の時代、災害に強い農業設備こそ求められている」と考えられていると思いますが、逆の発想があってもおもしろいですよね。フレームも含めてごく簡易的で、安価なもの。実はビニールハウスは高価格帯のものが増えているので、それらが被害を受けると深刻なんです。だから「すぐに安く建て替えられる」というのも、リスクとの付き合い方のひとつだと思います。もちろん台風や水害に強いハウスや超巨大な設備も魅力的です。農地だけでなく農機具の保管場所や事務スペースまで、すべてをひとつの膜で覆ってもらうというのも、想像するだけでワクワクしますからね。最近は「農業って災害リスクが大きいでしょう」と言われますが、むしろ農業技術そのものは進んでいるわけですから、自分たちの工夫も必要かなと思っています。

今後、ご自身はどのように農業と向き合っていきたいですか?

賀村:私は2018年に東京から佐賀へ戻ってきたのですが、やはり東京に比べると人とのつながりが生まれやすいというのはあると思います。それは同業者だけでなく、農家さんだったり、伝統工芸をやっている人だったり。もっと言えば、企業のキーパーソンとも知り合える。結果として仕事の進むスピードも速いように感じますね。

江口:今の時代、私たちのような仕事なら佐賀にいながら東京の仕事だってできます。山口産業のようなものづくりの会社ではそこまで自由にはいかないかもしれませんが、それでも佐賀本社でありながら全国に支社がありますよね。それは働く人にとってもチャンスが広がっているということだと思います。結局は、どんな仕事でも、どこで働くにしても、本人の意識や気持ち次第で可能性はいくらでも広がるんですよね。

今後、山口産業に期待することや、一緒にやってみたいことはありますか?

江口:膜そのものの面白さや良さを伝える場を、山口産業がつくってほしいですね。製造現場の見学だけでなく、実際に膜に触れて感触や機能性を知れる場や、私たちのような外の人間がアイデアを持ち寄れるような場。

賀村:おそらく膜の端材とかも出ますよね?そういうものを使って「バッグをつくりませんか?」とか話をしてみたい。私がやっているプロジェクションマッピングを膜でやるなんてこともできるかもしれない。

江口:これは個人的な願望になるのですが、河川敷でドライブインシアターをやってほしいです。映画館よりも大きなスクリーンを膜でつくってもらって、音声はカーオーディオのFMを使って出すとか。河川敷にズラッと車が並んで、みんなで映画を楽しむ。どうでしょう?

賀村:それ、とてもいいアイデアですね。強度や運搬性といった特性を持つ膜ならではですよ。私も映画好きなので、ぜひキュレーションさせてください。

江口:膜を起点としたおもしろいアイデアはどんどん出てくる気がします。佐賀の多久から業界一位を目指しているという山口産業を私たちも応援したいし、その道のりを一緒に楽しみたいですね。

江口 昌紀

1982年生まれ。福岡県久留米市出身、佐賀県神埼市在住。2010年より佐賀市にてWEB制作を中心としたデジタルコンテンツ制作に携わり、2015年にミナデ株式会社を設立。2019年にフレル株式会社を設立。制作業務の傍ら、佐賀クリエイターズカンファレンス(SCC)を主宰し、若手クリエイター向けの講演や研究会を開催している。

賀村 航大

大阪芸術大学映像学科にて映画制作やコンテンツ制作を学んだ後、アールテクニカ株式会社入社。ディレクターとして映像系ニュースサイトや展示コンテンツの制作に携わる。2018年に佐賀県立博物館で開催された「すごいぞ!ボクの土木展」では、展示作品「砂場マッピング」「潮位の壁」「club DOBOKU」の企画・ディレクションを行う。